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■2月17日 第58回「安吾忌」(東京)レポート
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 第58回となる安吾忌が、今年も如水会館で開かれました。
 会場に向かうころには小雨がぱらつき、やがて雪にかわるという生憎の天気で、参加者も45人と例年よりも少し少ない気がしました。ただ、安吾忌に雪はつきものという声もあって、これはこれで情緒があってよかったのかも。

 まず、松之山安吾の会・登坂尚志さんの献杯の発声で安吾忌がスタートし、しばらくの歓談ののち、関係者・参加者のスピーチに移りました。
 スピーチのなかで印象に残ったものを紹介してみます。

 群馬県立土屋文明記念文学館の小林澄子さんからは、今年の4月21日から同文学館で安吾展を開催するとのお話がありました。群馬県といえば安吾終の住処となった桐生市もあります。よい機会なので、4月には高崎市の土屋文明記念文学館を訪ね、ちょっと桐生市にも足をのばしてみようかな、と思っています。

 脚本家・映画監督の井上淳一さんは、現在、安吾原作の映画「戦争と一人の女」を撮影中とのことでした。予算がかなり限られたなかでの撮影で苦労しているとのことですが、映画作りへの想いが伝わってくる熱いスピーチでした。もちろん、完成のアカツキには、必ず見に行きます!
 昨年のアニメ『UN-GO』といい、なんか最近、再び安吾が注目されてきている感じがします。ますます盛り上がってほしいものです。

 あと、twitterのangowebbotを運営されていた吉岡和年さんからは、angowebbotが自動ではなく吉岡さんの手動リツイートだったとのお話が。よくよく考えてみればそりゃそうだと改めて感激。膨大な安吾関連のつぶやきから、あれだけツボをつくものだけを拾いだすのは、やはり誰かが編集しないと無理ですよね。本当に大変な作業、ありがとうございました。

 もう一人、「坂口綱男・華雪『安吾の「私」を歩く』」という展示会が縁で安吾忌に参加された書家・華雪さんの「空」の話も印象的でした。京都出身の華雪さんが初めて「桜の森の満開の下」を読んだとき、「空が落ちてくる」という表現がどうも実感できなかったのだけれど、新潟で日本海に広がる曇り空を見たとき、「落ちてくる空」を実感した、という話です。

 今年のイベントは、粒コーダーカルテットのみなさんによるリコーダー演奏でした。
 演奏前に綱男さんから、坂口家で飼っていたコリー犬「ラモー」の話が出て、その名前の由来が音楽家のラモーから来ている、という紹介がありました。そんなこともあって、粒コーダーカルテットの方々は安吾忌での演奏が決まったとき、ラモーの楽譜を求めて楽器店に走ったそうです。
 イベントでは、ラモーやサティなどの曲が演奏されました。リコーダーと言えば音楽の授業を思い出しますが、やはり達人の腕は違います。小さいものからドでかいものまで、色んな種類のリコーダーがあるんですねえ。音色の豊かさに驚きました。

 ここでちょっと私事になりますが、私が安吾忌に参加するのは今回で9回目。いつもはただの参加者ですが、昨年末に『アンゴウ』を出版したこともあり、今回はスピーチと本の即売会もさせていただきました。
 そのときも話したのですが、ちょうど去年の安吾忌の後、三次会が終わって終電がなくなった七北数人さんと私で烏有書林の事務所に行き、そこで「シリーズ日本語の醍醐味」の企画が動き始めたのでした。シリーズ第一弾『アンゴウ』のセレクトを七北さんにお願いするとき、「いま新刊で普通に読むことが出来る安吾はカッコ良すぎる。もっと身近に感じられる、ドンクサクて可愛い安吾作品を」と依頼しました。
 それからちょうど一年後、安吾忌に『アンゴウ』を持っていくことができて、今年はとても感慨深い会になりました。

 会場の一角には、過去の安吾忌の資料が展示されていました。芳名録には、尾崎士郎、尾崎一雄、江戸川乱歩、田辺茂一や池島信平など、そうそうたる名前が並んでいて、そんな歴史の中に今日の参加者全員が連なっていることを実感し、身が引き締まる思いがしました。
 安吾作品がこれからも読み継がれ、安吾忌が60回100回と続いていってくれれば……でも安吾本人は、私が死んだあと私の作品がどうなろうが知ったこっちゃない、みたいなことを書いていたなあ。
 まあそんな本人の思惑とは関係なく、いい作品は残ってしまうものだから、これからも安吾忌は続いていくでしょう。そんなかしこまった会ではないので、まだ参加したことがないという安吾ファンの皆さんも、遠慮せず気軽に参加しましょう。

 ちなみに恒例の安吾カルトクイズではヤマカンが冴えわたり、10問中9問正解、トップタイの成績で、『爐邊夜話集』の初版本をゲットしました! 本を売りにいってもっと貴重な本をもらってしまうとは、スミマセン。

 で、例によって二次会、三次会、結局四次会にまで突入し、お開きになったのは朝。いやあ楽しかった。けど、最後はもうベロベロでほとんど何を話したか覚えていない……。なんとか幕張本郷駅にたどり着いてみるとすっかり雪景色。凍え死ぬかと思った。

(烏有書林・上田宙)

安吾忌
 
安吾忌
 
安吾忌
 
安吾忌
 
安吾忌
 

 

【粒コーダーカルテットの皆さんに感想を寄せていただきました】

 今回、「安吾にゆかりのあるドビュッシー、サティ、ラモーあたりの曲を入れてほしい」というオーダーがありました。この中で苦労したのはもちろんラモーです。ソプラノリコーダーの植村さんが「RAMEAU 9 Pieces」という楽譜を偶然見つけてくれたので、これを編曲して使うことにしました。ところが、どんな曲なのか4人とも知りません。本番の前週に「優雅なインドの人々」というオペラだということが分かり、YouTubeで曲を聴いて「おぉ、こんなに速いのか!」と驚愕。前日はカラオケボックスで必死に練習していました。
 本番は、いつもは笑いがとれる「ピタゴラスイッチのオープニングテーマ」が全くうけずにうろたえましたが、徐々にメンバーも調子が出てきて、楽しく演奏することができました。綱男さんや司会者の方にも選曲についてフォローしていただき、感謝です。
 あれから、なぜか私が持ち帰った写真の前の角瓶を少しずつ飲みつつ、青空文庫版の「桜の森の満開の下」から読み始めています。いつかは、安吾忌に堂々と参加できるようになろうと思います。

安吾忌
 
(大橋 源一郎)

 
 

「不思議なご縁もあるんだなぁ……」
安吾忌への参加が決まってから幾度となく呟いた言葉であり、実際に参加しての感想である。

私が坂口安吾の名前を認識したのは十数年前、安吾の故郷・新潟市の郊外の中学生だった時だ。ちょうど母校のOBである作家が芥川賞を受賞し、地元はお祝いムードに盛り上がっていた。当時何気なく眺めた国語の資料集、新潟県に所縁のある作家として紹介されていたうちの一人に坂口安吾の名前があった。
その頃はこういう作家がいるんだなぁ、ぐらいの認識でまさか今回のように関わることになるとはもちろん思ってもみなかった。なにせ、恥ずかしながら初めて作品に手を伸ばしたのも、来歴を調べたりしたのも安吾忌に参加することが決まってからなのだ……。

この年始に帰省した際、地元が同じ新潟ならと所縁の土地を歩いた。作中に描かれたお屋敷が自分の元々の実家の側であることに気付いて驚いたり、冬の新潟の鉛色の空と砂浜を眺めながらこの光景を安吾も見ていたのだなと思うと何か不思議な縁のようなものを感じた。

他にもいくつかの不思議なご縁が重なって得られた今回の貴重な体験と出逢いに感謝しきりである。
本当にありがとうございました!

安吾忌
 
(角田 佳祥衣 )