イベントレポート

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■「街の中の生誕祭 
   安吾生誕祭&誕生祭雑感」
安吾の会  久志田 渉


 私事になるが、私が友人から借りている一軒家は、二葉町にある。安吾生誕の地である西大畑や、護国神社傍の「安吾詩碑」、坂口献吉氏の旧宅も、この近所だ。足をほんの少し延ばせば、日本海や松林も散歩できる。築80年を越える我が家は、安吾が生きていた頃の風にも触れているはずだ(風が運んでくる砂に苦労ばかりするが…)。そんなことを折りにつけ感じる内に、この西大畑界隈は「安吾」で賑やかになりはじめた。2009年7月11日の「安吾 風の館」開館が契機だった。

 「『風の館』の周りで生誕祭が出来たらいいね」というのは、実行委員会の皆と話していたこと。それが実現した生誕103年祭(10月17日)には、安吾を育んだ土地と、安吾周辺に群れ集う人びとが交錯し、例年以上に盛り上がったように思う。浅子逸男先生の誠実な語りと調査から浮かび上がる、安吾という作家の戦後の充実。『道鏡』と『安吾史譚 道鏡童子』の対比や、『二合五勺に関する愛国的考察』の論旨を『安吾の新日本地理 長崎チャンポン』で補強したり。安吾の晩年の作品を愛する者には、とてもエキサイティングなひと時だった。

 千賀ゆう子さんのリーディングと高橋一志さんのギターによる『桜の森の満開の下』。おふたりのコンビによるパフォーマンスを聴くのは数度目だが、今回もまた惹きこまれてしまった。『木々の精、谷の精』を、舞台となった松之山大棟山美術博物館館で語られた時の、寒気にも似た感動にも似ている。西大畑の街が闇に包まれるころに核心に至った語りは、千賀さんが「感極まりそうになった」と後で語るほど、「虚空」を感じさせる迫力があった。

 我々スタッフの多くが聞けなかった「風の館」での館長・坂口綱男さんによる展示解説。翌日「市島三千雄を語り継ぐ会」の仲間と市内を散策した折に「風の館」を訪ねると、綱男さんは快く、寛いだ雰囲気でお話をしてくれた。いつも思うのだが、父・安吾や母・三千代さんを語る綱男さんの、両親との間合いの取り方に私は惹かれてしまう。友人のことを語るような気さくさの中に、静かに愛情が流れている。30年ほど前に撮った“安吾のいる風景”を懐かしそうに見つめる綱男さんの表情は、ステキだった。
 私たち「安吾の会」主催による「安吾誕生祭」(10月20日)は、傍から見たら「安吾を肴に酒ばかり呑みやがって」と言われそうな、いつもながらの宴になった。とはいえ、10月中旬の冷え込みの中、「安吾詩碑」をキャンドルで照らしての献杯や(振り出してきた時雨に慌てたり)、つい安吾を巡ってヒートアップしてしまう酒席など、強引に言えば手づくりの「安吾の誕生日」らしさが充ちていた、かな。

 安吾を思いながら新潟の街を、あちらこちらブラブラ歩く。ただ風を感じる。こんな愉しみが「風の館」を核に、少しずつ浸透していったら、どんなに楽しいだろう。安吾という作家を、近所の視点から感じるというのも、私なりの安吾への愛かもしれない。

写真1
篠田新潟市長挨拶
 
写真2
浅子逸男氏講演
 
写真3
千賀ゆう子朗読__高橋一志
 
写真4
10月20日誕生祭_安吾詩碑の前で
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