松之山情報
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■新緑の『安吾まつり』

福地 克規

 

 今年は季違い気候せいで、新潟でもゴールデン・ウィークが明けたのに暖房器具のお世話になる日が度々あった。なので、松之山へどんな格好で行けば最善なのか、直前まで迷っていた(まぁ、愚生のコトなので、上着を持参するかしないか程度で、ドレス・コードなぞと無縁の悩みです、念のため)。

 当日は爽やかな晴天となり、近所の松林は花粉が舞い踊る、数週間の暦を跳び超えたような朝であった。こんな日は、鈍行列車に揺られて暢気な時間を楽しみたいが、スケジュールの都合で断念。車で松之山へ向かった。

 多少早めに新潟を出発して、蕎麦でもゆ〜っくりと、味わえる予定であった。高速を下りてしばらく行くと、谷間には残雪が見え隠れしている。信号待ちで車外を眺めれば、まだ食にできそうなフキノトウも見える。

 浦田部落にある蕎麦屋さんへ着くと、桜がまだ咲いている。渋海川? の対岸では、花見のカラオケ大会も開かれている。そういえば今年は、新潟で三週間近く桜を楽しめたし、ここ松之山でも桜と遭遇できた。

 そういえば、この浦田部落の辺りが、蕎麦のツナギで、布海苔使う地域と山芋を使う地域の境界になっている、と、耳にしたコトがある。まぁ、旺盛な食欲と旨い蕎麦の前には、そのような蘊蓄など、ど〜でもよいのであるが…

 

 閑話休題(冒頭から逸れまくっているのに、この語を使用するのは不適切なコトはお目こぼしの程を)。

 車を今夜の宿であり、『安吾まつり』の“懇親会”の会場でもある「おふくろ館」に車をおき、会場の「大棟山美術博物館」までは歩いて行くことにした。かなりの残雪があり、ショウジョウハカマは咲き、鳴きなれぬウグイスの囀りも聞こえてくる。そんな春の訪れを満喫できた。喉が渇いたので、“越の露”の仕込みに使用していた水を飲もうとしたら、井戸の脇にもショウジョウハカマが、可憐に咲いていた。

 

 『安吾まつり』は、冒頭に“松之山朗読会”の有志による「風と光と二十の私と」の後半部分の朗読から始まった。「風と光と二十の私と」は、愚生が初めて安吾の中にある“越後人的気質”を感じた作品である。まだ、“二十”には余裕のある思春期前期? のコトであるが、いつの間にか、齢は“二十”の倍近くになってしまった…

 お次は、安吾の甥御さんであり、昨年発足した“松之山安吾の会”の会長、村山玄二郎さんのスピーチ。玄二郎さんは、在りし日の「村山邸」(「大棟山美術博物館」)の間取りや展示品の簡単な説明を話された。特に印象に残っているのは、現在は取壊された部分に薪小屋があり、その二階に阪妻が演じた“無法松”にそっくりの大工がいた話題だ。朴訥な玄二郎さんの話し方と、阪妻の“無法松”が醸し出すイメージ、豪農の館が有する厳かな雰囲気が渾然として、あたかも愚生もお会いしたことがあるように思えた。

 そして、安吾の長男坂口綱男さんによるトーク「安吾のいる風景 その後」。綱男さんの話芸は段々と磨かれてきて、この日はプロジェクターを使用し、実に堂々とした内容だった。時空を超越し、安吾(あるいは坂口家)という軸で紡がれた話は、機会を作ってその続きを聞きたい、と、思った。

 午后というよりも、昼下りといった時間帯も過ぎ、夕刻にはまだ早い頃、古屋和子さんによる語り「黒谷村」が始まった。古屋さんは琵琶を弾じながらの語りで、日常で琵琶の音を耳にするコトのない愚生は、かなり新鮮で、非常に楽しめた。さらに、アンコールの代わり? に、「平家物語」から「鹿谷」も詠じて戴けた。

 

 “懇親会”では、昨年の『安吾まつり』でお会いした方や、遠路盛岡より馳参じた方、普段からよくお会いする方など、あちらこちらで話の花が咲いていた。が、“花より団子”、“砂糖より左党”の愚生は、山菜を肴に“越の露”を消費していた。

 “酒の力は智と恥を削る”の箴言通り、先程からの疑問を古屋さんに、直接尋ねてしまった。それは、「黒谷村」を選んだのは誰なのか? である。回答は、古屋さんが「黒谷村」を好きだから、選択したそうである。さらに、「黒谷村」はフランス映画的だ、ともおっしゃる。「黒谷村」が好きな女性というのは、どうも… という愚生も、古屋さんの指摘は合点がいった。

 勢いのついた“懇親会”は、そのまま二次会へと発展した。もうその時刻には、アルコールが廻り記憶も怪しくなった。ただ憶えているのは、一人去り、また一人去り、先程まで賑やかだった場所が、愚生を含めた数名のみになった。そして、呑み足りない愚生のみが残った宴席の跡で、なぜか「黒谷村」の最後、停車場の場面を想像させた。

坂口綱男氏 トーク「安吾のいる風景 その後」坂口綱男氏 トーク「安吾のいる風景 その後」

 
琵琶弾き語り琵琶弾き語り
演目:「黒谷村」  語り手:古屋和子 

花見のカラオケ大会花見のカラオケ大会

残雪残雪 1

残雪残雪 1

 

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