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「ラムネ氏のこと」

  高校の国語教科書に採択され続けている、楽しくウィットに富んだ小品。

 坂口安吾なんて、やっぱり教科書には載らんだろう? と半ば揶揄するように問われることがある。そんな時、堂々と本作の名を挙げることができて、ファンとしてはありがたかった。

 実際、安吾作品が教育現場に不向きなのは間違いない。一般道徳には逆らいまくるし、すぐに性的な描写やグロテスクな描写が出てきたりする。代表作は軒並みアウトだ。齋藤孝先生ご推薦の「風と光と二十の私と」だって少しヤバイところがある。

 といっても、本作が“道徳的”なわけでは勿論ない。気軽な与太話の感じで、話はコロンコロンと転がるうちに、やはり気軽ではいられぬ方へ親近していく。

 共通するのは、一つ事に命を賭ける勇気があるかどうかということ。ラムネの玉を発明しただけで往生を遂げた(かもしれぬ)ラムネ氏、何世代もの死とひきかえのフグ料理人やキノコ採り名人、どんなに罰を受けても本物の恋愛を書こうとした戯作者たち……。

 長篇「島原の乱」第1稿にとりかかった頃、並行して書かれたエッセイなので、キリシタン殉教者たちの一途な熱狂が、それぞれの話のバックに反映されている。殉教に至る狂信を安吾は批判的にも見ていたが、要は心意気の話だ。

 なぜそんなことに、と思うようなことにも命を賭けるバカがいる。くだらない勝負やチッポケな発見のためでも、賭ける一瞬に、自分の命が息づいている。そこに自分のすべてがある。そんなバカだけが、輝ける“最初の人”になる。

 高校教師をやっている友人から、最近の教科書には「日本文化私観」や「文学のふるさと」「恋愛論」なども載っていると聞いた。先生泣かせの教材だと友人はこぼしていたが、この3作を選んだ教科書編集者は、さしずめラムネ氏的な蛮勇を讃えられてもいいだろう。

 
(七北数人)  
 
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