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「幽霊それから〔乞食幽霊〕」

 新しい若者群像を描いた晩年の“リアル・ファルス”短篇のひとつ。

「幽霊」という短篇が1年前に発表されているので、続篇かと勘違いしそうなタイトルだが、特につながりはない。ただ、金銭にからんだ恨みつらみや妄執が幽霊の形をとって幻視される、というところに共通するイメージがある。

 金にルーズで手癖が悪く、社会に容れられる余地のない無職のダメ青年。甲三のこんなキャラクター設定は、「幽霊」よりさらに数年前の「退歩主義者」に近い。欲得ずくの結婚を強要する、がめつい母親像も似ている。

 甲三は一面、自分の中だけの幻想に生きていて、アパート管理人の戸田がどんな悪事を企んでいるかも全部知っている(と妄想している)し、その妻が貞淑ぶっているが実は極度にワイセツであることも知っている(と妄想している)。全体に大時代な漢語的表現をわざと使ってギャグ風味をまぶしているのも、甲三の妄想癖とからめた表現技巧だろう。

 なりゆきで盗んだ金の多さに驚いた甲三は、更なる大金を欲して渇き苦しむ。「退歩主義者」では殺人の悲劇が待っていたが、ここでは袋小路から脱出させたい作者の願いがあったのかもしれない。「幽霊それから」の意味がそこにある(編集者が原題を嫌ったのか、単行本収録時に「乞食幽霊」と改題されたが、その題では意味不明)。

 作者の願いはともあれ、その後の甲三に幸せな新生活が開けるとは到底おもえない。盗みがバレて、たまたま金の妄執から脱したように見えるだけだ。どこにも逃げる当てはない。野獣のような少女との奇妙な交流エピソードも、現実の暗黒を見えにくくしている。

「オレの中には樹木が生えているらしい。南海の島の神代杉よりも逞しい樹木が。その樹木には無限に空へのびて行く生命力と意志がある」

 開き直って歩きだすこのラストが安吾らしいとして、よく批評で取り上げられる。が、本当はこれも単に、甲三得意の幻想的なホラ表現に過ぎないのではないか?

 どうせ幻視するなら、もっとグロテスクな曲がりくねった樹木の繁茂する南海の楽園ぐらいは見せてくれてもよかった。現代のネトゲ廃人にも通じる先鋭な設定だったのに、ラストで迷走したように思えて、大方の批評とは逆に少し残念な気がする。

 
(七北数人)  
 
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