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「南風譜」

 ピグマリオン(人形愛)テーマの幻想的掌篇。

 タイトル脇に「牧野信一へ」と献辞がそえられている。安吾を文壇に押し上げてくれた、いわば恩人といえる牧野は、この2年前に自殺していた。夢見がちな牧野の生き方そのものにピグマリオンの雰囲気があったので、本作を牧野への追悼に捧げたのだろう。作品の舞台も牧野の故郷紀伊になっているし、牧野にも同じ「南風譜」という作品があった。

 生身の女体以上にエロティックな仏像に執着する友人と、その仏像に嫉妬して刃物を突き立てる友人の白痴の妻。ヴァーチャル空間にはまりこんで現実に帰れなくなってしまった者たちの閉鎖的な愛欲世界は、現代のネトゲ廃人たちの世界と地続きだ。

 暗いテーマのはずだが、なぜか、ここが絶望的な場所には思えない。妖艶で怪奇な話なのに、透きとおっている。眩い南国の光がキラキラと降りそそぐイメージがある。

 文章が柔らかいせいかもしれない。味わい深い言葉が吟味して選ばれ、丁寧語の文末で優しく語られる。あの人たちの嵐はあの人たちだけのものだから――。語り手の一歩ひいた態度は、まさに旅人のそれであり、土足で彼らの関係に割り込まぬ配慮でもあろう。

 作者の優しさに見守られて、彼らだけの愛欲空間が、暖かな南国の風に吹かれるユートピアにも思えてくる。

 京都で一人、「吹雪物語」の主要部分を書き終えて、最終章に手をつけられないでいた1年余りの長い月日。その間に、この物語は生まれた。長篇執筆以外に書いた小説は本作と、エッセイ風の回想小説「女占師の前にて」だけで、他にはごく短いエッセイが2篇、どちらもふるさとの雪国と比較して南国への憧れを語ったものだった。暗鬱な吹雪の国を描く手を休めている間、逃避というよりは心に弾みをつけるために、南国のきらめきを形にしてみることが安吾に必要だったのかもしれない。

 そこに希求の源があったから、この短篇は夢のように淡くノスタルジックだ。言葉が大事な小品なので、できるかぎり、ゆっくり読んでみてほしい。

 
(七北数人)  
 
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