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「高麗神社の祭の笛〔安吾の新日本地理10〕」

 紀行ルポと歴史推理の合体した新日本地理シリーズの最終回。

 訪問地は埼玉県高麗郡高麗村(いまの日高市)にある高麗神社。そこに決めたのは半ば偶然だった。伊東競輪告発後、身の危険を感じた安吾は石神井の檀一雄宅に身を隠すことになり、移ってすぐ、檀宅からだと比較的近いということで高麗神社へ赴いたのである。

 といっても、シリーズ発想の時点から高麗神社の訪問は考えていたという。実際、訪問前の研究部分は相当に詳しい。第1回の伊勢から続く渡来人の歴史を総括する趣もある。

 渡来人には二つの道があったと安吾はいう。一方は名実ともに日本人化して、出世レースに参戦する道。究極は蘇我氏のごとく天皇をめざす。もう一方は高麗村の人々のように、おおやけに高麗人と名乗り続け、中央と一切争わず、僻村にのんびり生きていく道。

 調和的で穏やかな人々が選んだ道だから、「飛鳥の幻」の蘇我天皇のような劇的な真実発見はないが、現代まで「飴の様に延びた」歴史を目の当たりにする面白さがある。

 偶然はもう一つ起こる。訪問した1951年10月18日は、神社の例大祭前日で、獅子舞の予行練習が行われていた。関東地方に多い三頭一人立ちの獅子舞で、腹に付けた太鼓を叩きながら舞う。伴奏はササラと篠笛とほら貝。

 笛の音色を聞いた安吾は、かくれんぼのメロディにそっくりだと心惹かれ、そこからマニアックな音色研究が始まる。こういう時、安吾の集中力は異常なほどに高まり、どんどん深く、ほとんど自分だけの穴へと掘り進んでいく。楽譜とみられる資料を全部書き出して、これは昔のどこかの言語かもしれぬと推測するあたり、少し可笑しい。

 私も予行練習の日と例大祭の日と二度訪れて聞いたが、基本的にはやはり、主に笛の音を記した楽譜だろうと思われた。「ドコニイタイタ」というのは、謡のオジサンがそのままの文句で歌っていたように聞こえた。

 笛の音色に安吾が惹かれた気持ちはよくわかる。すすきの原に風が吹く感じ。夕暮れの家路で道に迷う感じ。少し怖いような山にいだかれ、森の気にひたって、でも、こんな寂しさは悪くない。安吾は子供の頃から好きだった荒涼の風景を、どれということもなく思い出し、懐かしんでいたんじゃないだろうか。

 
(七北数人)  
 
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