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「麓〔戯曲〕」

 未完の長篇「麓」の1年後に発表された戯曲。題は同じでも、内容的にはほとんど関連はない。末尾に「全3幕のうち第1幕」とあり、残念ながらこれも未完に終わった。

 安吾が発表した戯曲は、初期の本作と晩年の「輸血」の2作しかない。なぜと問いたくなるが、別に確たる理由はないのだろう。戯曲は舞台上演用の台本として書かれるのが本来なので、何らかの縁がなければ、小説家はなかなか戯曲には手を出さない。

 わずか2作だが、安吾は実は資質的に戯曲に向いていたのではないかと思う。

 行動する主人公の動きを追うのは、戯曲では難しい。背景が固定されているからだが、逆にいえば、旧家の大広間での群像ドラマなどは戯曲向きの設定といえる。時間の飛躍(大小含めて)も小説なら簡単だが、舞台では仕掛けが要る。つなぎの時間や余りの時間をどう生かすか、そこが手腕の見せ所にもなる。

 こうした舞台の特性を生かして、安吾は山麓の旧家に集う没落貴族たちの愛憎劇を、チェーホフの「桜の園」さながらの展開で描く。完成していれば「桜の園」を超える名作になっていたかもしれない、そう思わせるほどのパワーがあり、生気に満ちている。

 生気にあふれながらも、すべてが、滅亡へ向かって行く者たちへの挽歌になっている。皆それぞれに自分だけの絶望をかかえて、でも皆それぞれに、愛する者を思いやっている。深い穴の底で育まれた感情と意志をもって、ひとから誤解されるような行動をわざとする。表面では反発していても、心の裏側には優しさや悲しみが折り重なっている。

「アドルフ」や「赤と黒」などから連綿と続くテーマ、はるかに年上の女性との爛れた愛欲も、ここでは哀切に、いたわり深く書かれている。

 本作の前年10月、安吾は200枚の中篇「浅間雪子」を『文學界』に送っている。本作のヒロイン名と同じなので、ここから戯曲へと発展させたと想像できる。しかし、この小説は未掲載のまま雑誌廃刊となり、原稿が現存しているかどうかもわからない。

 浅間の苗字は、「麓」の一つ前の小説「小さな部屋」の悪女・浅間麻油と同じ。

 雪子の名は、戦後の「花妖」でも使われた。雪子が去ったあとに花粉の舞い落ちるイメージなど、「小さな部屋」や小説「麓」から続くものだ。未完続きの試みの、雪辱の思いもあったか。しかし「花妖」もまた、不幸な外的要因により未完に終わる。

 
(七北数人)  
 
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