作品

作品名 村のひと騒ぎ
発表年月日 1932/10/1
ジャンル ファルス
内容・備考  婚礼の酒にありつきたいがために、死んだ人を1日生き返らせようと奮闘するスラップスティック・ギャグ。へたな解説は要らない。あまりにシュールな「風博士」よりも、こちらのほうがファルスの定義にかなうだろう。
「安吾のいうファルスとは」云々と小難しく論じられることが多いが、ひとまずはシンプルに、ファルス=落語の類、と見ておけば間違いがない。実際、エッセイ「FARCEに就て」の中で安吾が見本に挙げたファルス作品は、「放屁論」を書いた平賀源内や、お風呂でオナラの「浮世風呂」、狂言や落語など、子供にもウケる単純な笑い話が中心だ。
 本作は会話が多い分、語り口も落語に近くなっている。ちょっとばかし不謹慎なところがまたいい。酒やごちそうへの執着から、頭をひねってひねってひねり倒して、珍奇なアイデアを生みだす村人たちのドタバタ騒ぎがなんとも愉快だ。
 皮肉は御法度。風刺はイヤラシイ。村人たちのちっぽけな欲望をあざわらうのでなく、語り手と一緒にその悪戦苦闘の顛末を楽しみたい。お風呂でオナラのように、単純に。
「ファルスとは、人間の全てを、全的に、一つ残さず肯定しやうとするものである」(「FARCEに就て」)
 つい否定的な見方ばかりしてしまう我々の日常を、すべて笑いに転化してみたら、世界は少し違って見えるかもしれない。さらりと薄皮一枚、人生観が変わることだってありうる。
 二番めに演台に立った青年訓導が、死んだのは女だから女たちはお通夜へ、男たちは婚礼へ、と演説するや、ドドドッと詰め寄る女教員たちのパワフルさ! ウーマン・リブを40年ほど先取りした感もある。安吾作品に登場するオバサンは常に、男どもより何倍も元気だ(しかも、しばしば怪力)。恐妻家のダンナは姑息に酒に逃げるより手はない。
 青年訓導の意見はまさに名案、と思ったんだが……う、やばい!
                      (七北数人)
掲載書誌名
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